2017年3月19日 星期日

ど頬ずそっ


海の王国で海神に謁見したマハンメドは、ヤークートの誓いの虹色真珠を海神の元に届けた。
末の王子が永遠の愛を誓い、虹色真珠を零したと知った海神は、王子の行方を尋ねたがマハンメドは哀しげに首を振り俯くばかりだった。

「お許しください。すぐ傍にいたのに、わたしは王子を守りきれませんでした。信じていた腹心に裏切られ、6番目の王子の手を放してしまったのです。」

そういうマハンメドの姿は、すでに海の者となっていた。褐色の肌の大きな傷はまだ癒えていなかったが、その首には海で呼吸するための鰓孔が並び、下肢は小さな人魚と同じように青い魚の鱗でおおわれていた。

青い小さな王子の思い人マハンメドは海神との謁見後、海の王国に住まうことを許され、
気の遠くなるほどの長い時間、海の王国のヤークートの部屋で、愛おしいヤークートを待っていた。
海神に魚の尾を貰い、毎夜、水面近くまで昇ると巨大な鮫となって、叶わぬまでも思い人の姿を捜した。

やがて、マハンメドが海鳥に伝えた王子の名前は、世界中の鳥たちが知る所となり、ヤークートを誘拐した奴隷商人が出入りしている王宮の名も分かった。海の生き物は皆、末の王子を愛していた。

王宮の見える入り江に、マハンメドと海の兵士たちは潜み、辛抱強く好機を待った。
そして、ついに恋人たちは最愛の半身を手に入れる。

*****

「マハンメド……ああ……あなた。」

引き離された恋人ヤークートは、散々に蹂躙された挙句、やっと安住の海の王国に帰還してきた。
傷付いたヤークートは抱きしめられ、白い大きなシャコガイの寝台に傷付いた身体を横たえた。珊瑚の回廊を走り抜けた、愛するマハンメドが姿を現した。

「ヤークート、大丈夫か?すまぬ。助けに行くのがすっかり遅くなってしまった。」

「平気です。傷はいつかのように……マハンメドの血が、ほら治してくれる……。」

傷口に垂らされた少量の血が、みるみるうちに傷を癒して行く。透明な足鰭も鱗を削られた下肢もしばらくると元通りになった。
出会ったころの可愛らしい青い小さな人魚の姿になって、小首をかしげて微笑むヤークートに、マハンメドは思わと手を伸ばした。大切な物が隠されている下肢には、官能を揺さぶられると慎ましく勃ちあがる紅色の突起があり、今やマハンメドにも同じものがあった。

「すっかり、海神の眷属になられたのですね。何というご立派で雄々しいお姿でしょう。」

ヤークートは印を触ると嬉しげに声をあげた。意を決して跪くと、おずおずとマハンメドの下肢に近付き、紅色の突起に柔らかい小さな赤い舌を這わせた。ちらと愛人を見上げる目には、まだ躊躇があったけれを染めて口淫するヤークートが愛おしく、咽喉奥に貪られるものは瞬時にぐんと質量を増した。

「は……ふっ……んんっ……。」

喉の奥を塞ぐほどの肉の塊に苦闘するヤークートを眺め、マハンメドは微笑を浮かべ、人魚にも大小はあるのかなと素直に口にした。衣服を身に付けない人魚たちの生殖器は慎ましく内部に格納され、必要な時だけ外に形を表れる。屹立したそれは、自分とヤークートのものではずいぶん大きさが違っていて、マハンメドは思わずくすりと笑ってしまった。

「?……どうかなさったのですか?」と、可愛らしいヤークートが頬を染め、艷めかしくとろりと蕩けた視線を向ける。

「いや。お前のものはずいぶんと……。」

「ずいぶんと……何です……?わたしは……人の手で穢されました。もし、そのことをおっしゃっているのでしたら、わたしにはもう、あなたのお傍に寄る資格が有りません……。」

人間達の手で烈しく蹂躙されてしまった自分を、もう抱いてはくださらないのだと思い、ヤークートは涙ぐんでいた。手首に今も薄傷の残るほどの縛めを受け、下肢もあれほどひどく傷ついてしまったのを見てしまったら、きっと誓った常世の愛も冷めて虚しくなってしまったのだろう。