2017年7月27日 星期四

深しまっく考


「織田さんはおれの人生の師ですから。いつか話してくれたじゃないですか。」

手を貸して彩を起こす里流の身体は、昔と違って身体を預けても揺らぐ事は無く、かなりしっかりとしているようだった。
彩はぐらりと揺れる視界に、自分がしたたかに酔っているのを感じていた。

「……目が……回る。気分が悪い……」

「織田先輩、大丈夫ですか。どこかに入って休みますか?」

後になって彩は深く後悔する。
その時、彩はどうかしていた。

「現実」に足を取られ、その場から進めないでいる自分を心配する里流が、哀れむように憐憫生命水好唔好用の表情を浮かべた気がする。

里流は先輩のように成りたくてと口にした。
ずっと背中を追って来ていた後輩が、少年のころと変わらぬ無垢な笑みを湛えて、彩の歩きたかった道を行く。
ふと、やっかみにまみれた凶暴な感情が芽生えた。

「……里流。そこの……ホテルへ行こう……」

「えっ……?」里流は瞠目した後、一つ息を吐き固く目を閉じた。
そして薄い笑みを向けた。

「……良いですよ。織田さんは酔っているし、酔いが醒めるまで少し休みましょうか。」

「ああ……」

睡眠不足のせいだろうか、どこかやつれて見える彩の話を聞きたいと思った。
里流も彩の事を何も知らずに、いきなり声を掛けたわけではない。
全てを知っているわけではないが、彩の家の事情を、地元に居る野球部の友人たちから少しは聞いて知っている。すっかり日が落ちた遅い夕刻、一人でぼんやり河原で佇む姿を見たと、数人から聞いて胸が騒いだ。
卒業以来、会う機会は無かったが、里流にとって初恋の人の存在は離れていても様子を問わずにいられないほど気になっていた。

「何かさ、俺が見たときは、生活に疲れて黄昏ている親父って言う風だったぜ。何か声掛けられる雰囲気じゃなかった。」

「そうなんだ。織田さん、仕事上手くいってないのかな?」

「どうかな。就職できてった言っても、朔良姫の親の所だろ?あそこは理系の大卒が入るような所だからさ。先輩がいくら頭良くても高卒レベルじゃしんどいんじゃないかな。ほら、IT関係ならやっぱり資格とか必要だろうし。」

「そうだよね……。大丈夫な生命水好唔好用のかな、先輩。」

「就職も他に、もっと楽な所もあるだろうと思うけど、朔良姫のこともあるからだろうな。親戚だしさ。里流、先輩と仲良かっただろ?心配だったら、一度電話でもしてみろよ。番号知ってるんだろ?きっと喜ぶよ。」

「……ん、知ってるけど……電話はどうかな。」

里流は何度も電話をしようとして、その都度思いきれなかった。
彩の傍らには、ずっと織田朔良がいるはずだ。そう考えると、自分の出る幕などないと思ってしまう。
あの日、里流と別れて朔良の傍に居る事にしたと告げたのは、彩だった。
もしも何の用だと言われたら、何と返事をすればいだろう。

帰省するたび短期バイトで入る居酒屋で、最近仕事関係の人と呑む彩を何度か見かけた。
思い切って話掛けようと思っていた矢先に、寝こんでた彩を囲む同僚を見つけ、勇気を出して声を掛けた。

里流の中では数年たっても、彩はまだ高校の先輩のままだった。
喘息に苦しむ自分に合わせて先を走る、優しい広い背中を持っているはずだった。

しかし彩は変化していた。
心から心配する里流の視線を、疲弊していた彩は一方的に誤解してしまった。

したたかに酔った彩を支え、二人は安ホテルの入り口をくぐった。
互いに足を踏み入れたことのない場所だったが、えないようにしていた。

「とりあえずシャワーでも浴びるか?」

「あ……の……?織田さん。酔っているでしょう?シャワーよりも水を飲んだ方がいいですよ。横になったら少しは楽に……」

「俺に指図するのか?優位に立ったつもりか、里流。」

「……えっ?そんなつもりは……あっ!」

いきなり腹に膝蹴りを喰らい、里流はその場にひっくり返った。どっと覆いかぶさってきた背の高い彩の身体の重みを、里流は押しのけられなかった。一体何が彩を怒らせているのか、里流には激昂の理由が分からなかった。
喉元に苦い胃液がこみ上げて吐きそうになるのを、何とか耐えた。
血走った眼の彩が、苦しむ里生命水好唔好用流に一瞬驚いて、目を逸らした気がする。里流は精一杯、静かに声を掛けた。

2017年7月4日 星期二

た人が一番近い



「だってね~、篠塚宗太郎って、うちの宗と同じ名前なんだもの。」


宗ちゃんと同じ名前の、6代目の篠塚家のお殿様は、あのちんまりとした若様のことだ。


二人はあたしが席を外した後、家系図を見せてもらったそうだ。


現代まで連綿と続く篠塚の一族。


長子、篠塚宗太郎正英の名の下には、妻と子の名前が記載されていたらしい。


そこから長く続く、篠塚家。


若様は6歳で亡くなったはずなのに????


何で、妻子がいるの?


おかしいです???

「あの時おれには、先輩が酔っ払っているように見ましたけど?」


爽やか高校生は、赤面した。


「親父のチューハイが、回ってたんだ。申し訳ない。」


気の毒なほど、恐縮する。


「ああ、それで足元ふらついていたんだ。」


「それで、やっと判りましたよ。やっぱり、昨日のは、まぐれですね。」


「県代表に、勝てるわけないですって。」

「従姉妹のこいつ真子っていうんですけど、一応預かってるんで何かあったら俺の責任というか???」


?正直、後が怖いんで、頑張りました。」


あたしも笑う。

(上手い嘘つくね、宗ちゃん。)


「ああいうのって、ビギナーズ?ラックっていうんですよね~。素人精子 健康の宗ちゃんが、有段者にかなうわけないじゃないですか。」


未成年飲酒の高校生も、一緒に笑顔になった。


「そうか。ともかくごめんな。」


「貸しにしといてくれ。

篠塚に何かあったら、俺なんでもするから。」


やたらと爽やかに剣士は退場した。


案外、若様の武術指南とかだったりしてね。


「そうじゃな???。」

「確かにあやつは、わたしの武術指南の榊原図書之介に似ておる気がするぞ。」


おっと???。


神出鬼没はやめてください???若様。


「若様。さっきの人が???(あ、名前聞くの忘れちゃった)お詫びにって冷えたスイカ持ってきてくれたんだけど、食べる?」


「スイカ?」


宗ちゃんは、中々察しがいい。


若様は宗ちゃんに任せて、あたしはおばあちゃんと話をする。


向こうの方で、「昔はこのように大きなものはなかったがの」と、おいしいスイカに感動する若様の声がしていた???

おばあちゃんの話は、あたしを驚愕させた。


それを思いつかなかった、鈍感なあたし。


「篠塚宗太郎正英は、双子だったのよ。」


「どうやら、長い間子ができなかった、篠塚の領主は大層喜んだそうなんだけど、当時武士の社会では双子というのはお家騒動の火種になるとして歓迎されなかったのね。」


そんな話は、どこかで聞いたことがあった。


「ご重役は、「畜生腹」として生まれて間もない、篠塚家の嫡子をどうするか何日も相談したけど、どんなに議論を尽くしても結論は出なかったみたい。


普通は、一方は死産として奥方に見せる前に殺してしまうか、遠くへ養子にやるらしいんだけど???。」


お産を終えたばかりの奥方は、二人の可愛い男の子を取り上げられまいとして抱えて離さなかったみたいだった。


「ずっと泣いてばかりいて、血の道の発作を起こす奥方の哀れな姿に、とうと精弱う篠塚の領主は、二人の男の子を手元に置くことに決めたそうなの。


考えあぐねた末、出した答えはね。


戦乱の世だったから、当主の「影」としてなら役に立つこともあるだろうですって???」


血の道というのは、今で言う精神疾患のことだそうだ。


「奥方は、殺されてしまうよりは良いと納得したの。


それから、兄は篠塚の6代目として弟は「影」として、密かに育てられることになったそうなの。」


若様は、ちゃんとその時代に居た。


「だから、表向き一人生まれたことにして、名前は二人して「宗太郎」と呼ばれることになったの。


だけど、領主と奥方はそう呼んだけど、弟は家臣からは名もない「影様」と呼ばれたそうよ。」


おばあちゃんからそんな話を聞き、あたしの涙腺は、決壊寸前になっていた。


だって、居ながらにして存在を否定されるなんて???。


若様の、生まれてきた意味はなんなの?


生まれつき誰も知らない?影?だなんて、悲しすぎる???


当時の菩提寺の住職が、領主様から若様の行く末を相談され、覚書としてつけていたものを拝借して読ませていただいたそうだ。


きっと、あたしには漢字が難しくて読めないんだろうなと思う。


???城の奥に格子を入れた居室を作り、部屋に入れるのは乳母と守役、家老の数人だけ。


冷めた食事も箱膳で運ばれ、陽の差さぬ奥で乳母と二人静かにひっそりと影としての心得を説かれ、暮らす、若様。


子供らしく声を上げて走ることも、お日さまの下で風車をまわすことも、禁じられていた。


いつか本当の若様が初陣したときや、若様の命に決定的な危精子健康え険が迫った時の身代わりの「影」としてだけ存在したもう一人の宗太郎。


「何も、真子が泣くことはあるまい。」


「宗ちゃん???」


???スイカの種が、ほっぺたにくっついてる???


「わたしは父上からも望まれて生まれたと、母上に言われたのだ。」


「今は儚き身の上なれど、兄上に有事の折には必ずお役に立つ所存であった。」


「だからわたしは、兄上のお役に立つように武芸も勉学も懸命に励んだのだ。」


「遠くから兄上の所作を真似しての。

入れ替わった武芸の時間だけは、わたしは誰からも影殿とは呼ばれなかった。」


宗太郎は、二人存在して一人は城の奥座敷に閉じ込められ、一人は落ち延びて命ながらえたのだった。


「ごめんください。」


玄関で、誰かの声がする。


取り込み中のおばあちゃんの部屋はずなので、あたしは大急ぎで玄関に向かった。


「あ???っ。」


小さく漏れてしまった不満の声。


「先日は、失礼しました。」


夏祭りで、絡んできた高校生の剣道部????


剣道部は室内練習なのに、あなた色黒すぎでしょ???と、ちょっと思った。


「謝りに来た。」


手土産に、冷えた大きなスイカを持って、少年は夜に出会っとは同一人物に見えないくらい、爽やかだった。


「あ、ありがとうございます。」

「それで、あの宗君に会いたいんだけど、ご在宅でしょうか?」


「え???と。居るにはいるんだけど、ちょっと待ってて下さい???」


様子を伺ったけど、おばあちゃんの部屋から、宗ちゃんが出てくる様子はなかった。


「ふ~ん???こやつ、祭りの夜に、絡んできた奴か。」